PROJECT_01
現場の声を製品へ
独自データ分析が叶えた極限のフィット感
あれ?上下が逆? 2017年12月に発売されたアイウェア『E-NOX NEURON(イーノックスニューロン)』の原型は、2004年アテネ五輪女子マラソンで野口みずき選手が着用し、金メダルを獲得した「E-NOXα」だ。このモデルは、走る振動でサングラスが揺れてズレないアイウェアとして、歩幅が広く飛び跳ねるような走法の野口選手のために開発された。走りと一体化し結果に結びついたこのモデルは、当時話題となった。
それから約10年。陸上競技のレーシングサービスを行っていた担当者は、よりランナーの顔にフィットしたアイウェアを開発できないかと考えていた。陸上アスリートは競技の特性上、他のアスリートに比べて身体が絞られ、それに伴って顔もシャープな人が多い。それに加えて現代の10代・20代のアスリートは、以前にも増して小顔の人が増えている。当社では、長年日本人の頭部寸法を基にした独自の社内基準を設定し、日本人ランナーのためのアイウェアを作ってきたが、今のトップアスリート専用モデルを作るには、新たな基準をベースにした方がいいのではないのか、という疑問がわいたのだ。
「改めて男女別の現役アスリートの頭部データを計測しよう」。
そこで開発やデザイナー、設計など10数名が、100名を超える現役アスリートのもとを訪問し、頭部サイズを計測。そのデータをもとに頭部の3D模型を製作したところ、今まで社内基準としていた日本人男女の頭部寸法データよりも小さいことが判った。また、顔幅だけでなく、こめかみから頬にかけたフェイスラインにも大きな特徴があることも判明した。
このデータをもとに、デザイナーは、頬骨あたりまでフレームを伸ばし沿わせれば、顔への接地面積が増え、アイウェアのブレを極限まで抑えることができると考えた。参考にしたのは、冒頭の野口みずきが着用した「E-NOXα」だ。
早速作成したサンプルを手に、アスリートが待つ現場へと向かった開発メンバー。奇抜なデザインやコンパクトさについて、厳しい意見も覚悟していたという心配をよそに、アスリートの評判は上々だった。「初めてフィットする感覚がわかった」「長時間の着用でもストレスがない」「視野が狭くならず、つけてないみたいに軽い」。
これならいける!と確信した瞬間だった。
ところが、逆風は社内にあった。ターゲットをランナーに絞ったその独特なフォルムとサイズの小型化が極端すぎて、本当に売れるのか、という声が多数上がったのだ。一般的に、使用者を限定したものやデザインの偏った製品は売れにくいため、販売のリスクが高いと考えるのも当然だ。しかし、開発メンバーは粘り強く社内の説得を続けた。真剣に競技に取り組むアスリートの声を直接聴き、そこにランナーの課題とニーズがあることは明確だった。その現役アスリートの声に応えたい、そしてそれは陸上競技におけるSWANSブランド力の向上にも必ずつながるはずだという確信もあった。そして、侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論の末、製品化にむけてストップしていた開発が再び動き出した。
その頃、製品化のための金型設計もスタート。しかし、従来のレンズを用いたシミュレーションでは、どうしても安全性を担保できるレンズの強度が出ないことが判明する。コンパクトさとフィット感が今回の製品開発のポイントのため、レンズをフレームの一部とする超軽量設計は変えられない。材料開発を担当する技術者は新材料での開発に取り組むことを決意。試作と構造解析、検証を何度も繰り返し、ついにめざす性能を持った新レンズが完成した。
新型グラスは、「細胞(NEURON)レベルの極限のフィット感 “纏う(まとう)アイウェア”『E-NOX NEURON』」と名付けられた。アイウェアといわれてイメージする形が一つではないことを証明したE-NOX NEURON。その真価はすぐに形になって現れた。「着けていることを忘れてしまうほど自然な掛け心地だ」と語っていたトライアスロンランナーが、初着用のレースでいきなり優勝したのだ。トップマラソン選手を多数輩出しているある実業団を訪問した際にも、実際製品を試したアスリート全員がE-NOX NEURONの着用を希望したという。
とはいえ、独特の形状もあり、販売店の店頭に並べていて自発的に売れていく製品でないことは開発メンバーもよく理解している。現場の声を聴き、走るための機能に特化した究極のアイウェアだからこそ、一度手に取ってもらえればその価値は必ずわかってもらえるはず。だからこそ、どうやって直接手に取り、そのフィット感を体験してもらうか、ここからが鳥谷たち営業の力の見せどころだ。
アスリートの身体レベル、求める環境は常に進化し続けている。彼らが当社の製品を纏い、最高のパフォーマンスが発揮できるようサポートすることが当社の使命。2020年の舞台で、E-NOX NEURONの着用を自ら希望してくれたアスリートたちが一人でも多く結果を出せるよう、当社ができることを考え提供していくこと。その答えは、いつも現場にある。